ロンドンの精神病院を舞台にした傑作『BLUE/ORANGE』が間もなく幕を開ける。境界性人格障害患者の青年クリストファー、研修医のブルース、医師のロバートの3人が繰り広げる会話劇は、9年前の初演で大きな話題となった。今回は初演でクリストファーを演じた成河さんがブルースに、ブルースを演じた千葉哲也さんがロバートを演じることとなり、クリストファー役には舞台での活躍が目覚ましい章平さんを新たに迎えている。
今回稽古場において、出演者3人の方々へ合同取材が実現した。稽古が始まって2週間、ノリに乗っている時期に熱い思いを語っていただいた。
――お稽古が始まって2週間ほど経ちましたが、現在どのような感じですか?
成河:改めて面白くて、作るのが難しい作品だと感じています。お客さんにしっかり分かってもらえるように作るのがとても難しい。この作品はなんとなくやっていると、お客さんに「なんだ?なんだ?」と受け取られる可能性がありますし、そうなったら僕たちの間違いになってしまう。この戯曲は決してお客さんに謎かけをしたいものではないですし、作品から分かってもらえることがたくさんあると思いますからね。
千葉:お客さんの集中力は相当いると思いますよ。
章平:クリストファーという役を確立するのは相当高い壁ですが、それと戦いながらも僕はお二人と一緒に稽古をしていること自体がすごく楽しいし面白いです。
――千葉さん、成河さんは初演の時と役が変わっています。そのあたりはどのように感じていますか?
千葉:今回の上演は、小川絵梨子さんの翻訳なので、挑み方としてはほぼ新作だと思っています。前回の公演で全体の構成のロジックみたいなものはなんとなく解けていたつもりですけれど、今回翻訳が新たになったことで「ここがちょっと初演と解釈が違ったな」というところがあるので、そこを今作り変えているところです。各パートの役が違うので、前回の印象とは全然違うものになるんじゃないでしょうか。
成河:今回はブルース役ということで、千葉さん演じるロバートと議論をするわけですけれど、僕と千葉さんの関係で立ち上がってくる物語になっているだろうなと思っています。そして2人の間にいる章平くんの存在感で物語が作られていくのではないかと。僕は初演のビデオをあまり観ないほうですが、9年前の作品だしすごく好きだったので改めて観てみました。すごく面白かったですけれど、今回は全然違うものになっていると思います。3人芝居は関係性がダイレクトに出てくると思いますし、年齢設定も違いますからね。初演を観た方も新作を観るような気持ちになると思います。
――千葉さんは今回も演出を担当されますが、初演と変えたいと思っているところや逆に全然変えずにいこうと思っているところなどありますか?
千葉:前回は読解をするのに時間がかかったけれど、今回は前回を踏まえたものがあるのでやりやすく感じるところはあります。ですが、外国特有の言葉や文化圏の違いというのはどうしても出てきます。この芝居は2人が向き合ってしゃべり、30分ずっと動かないというシーンがあるので、それを頑張ってやってみようかなという気になっています。例えていうなら、議会で議員たちが討論しているところを見ているような感じになりますから、お客さんも頑張って観てほしいですね(笑)。
――上演時間は3時間ほどになるのでしょうか?
千葉:見当もつきません!(笑)
成河:今、どうしようかと話し合っているところなんです。面白いものを作れば、お客さんは何時間でも観てくれると思っているんですよ。作品の中で話し合われていることの内容そのものが本当に考える価値のあることだし、誰でももしかしたら1日に1回ぐらい考えるようなことです。
何が狂っていて何が正常なのかということを、面白おかしく話し合っているだけですが、どこからでも入ることができる話し合いなので、お客さんにはしっかりと話し合いに参加をして、一緒に考えてもらいたいなと思い
千葉:人を見る目って、こんなにも三者三様で違うんだということをじっくり見てもらいたいですね。
成河:初演と同じように、今回もはさみ舞台です。この芝居は観察するということがテーマになっているので、医師が患者を観察する、時には患者が医師を観察する、観客がお芝居を観察している、僕たちが観客を観察している、観客どうしも観察している。初演を思い返してもそういう場がすごく出来上がっていたんだなと思うので、はさみ舞台というのはこの芝居の構成そのものだと思っています。(演出を担当する千葉さんを見て)正しいと思います!(笑)
――章平さんははさみ舞台ならではの面白さを感じていらっしゃいますか?
章平:僕は『テイク・ミー・アウト2018』という作品ではさみ舞台を経験しましたが、どの舞台でもそうかもしれないけれど、はさみ舞台は特に見られている目が多いじゃないですか。その分、神経をすごく使うなと感じますね。
――『テイク・ミー・アウト2018』の話が出ましたが、過去のインタビューで成河さんは、この舞台で章平さんに注目されて今回声をかけられたとお聞きしましたが……。
成河:だって良かったじゃん!(笑)。
僕は不勉強で、失礼な話ですが『テイク・ミー・アウト2018』で章平くんを初めて拝見したんですよ。背も大きいしその役では声もとても低くて、そのままの状態でそこにいる存在感がとても素敵だったので、今回のお芝居にすごく合うだろうなと思いました。あとから知ったのですが、小川絵梨子さんや鈴木裕美さんにすごく評価されているそうなので、そりゃあなるほどなと。何もしないでただそこに居るということが、すごく素敵だったんですよ。あとビジュアルね! 本来戯曲に書かれたとおりのクリストファーのビジュアルなので。
千葉:今回でかいクリストファーが出るよっていう話でしたからね。
成河:「なんかすごく面白い子、いたよ」と千葉さんに話をしたら「いいんじゃないの」という感じで、再演が実現しました。章平くんの芝居を見てなければ、たぶん再演していなかったと思いますよ。絶対に再演するからクリストファー役を見つけなきゃってことではなかったですから。
――章平さんは今のお話を聞いていかがですか?
章平:めちゃくちゃうれしいですよ。『テイク・ミー・アウト2018』が終わったあと、成河さんに初めてお会いして「本当によかったです」と言ってもらえて、その後すぐこのお話をいただいたんですよ。
千葉:頭が上がらないね(笑)。
章平:本当にそうです!
千葉:俺は成河からこの話を聞いて、成河が言うんだったら大丈夫でしょって。
章平:この場に立てるのは奇跡みたいなもんですよね。そういうめぐり合わせで僕はここに立てているわけですから、大事にしたいです。
――お二人と演技をされていて、難しいと感じるところはありますか?
章平:俳優としてやるべきことをやらないことを求められるところです。例えばリアクションをしないとか、動機を見せないとか、空気を読まないとか。
千葉:境界性人格障害の役だから、きちんとコミュニケーションをとってしまうといけないんだよね。
成河:そこを演じることがすごく面白かったりするので、それに立ち向かっている章平くんを見てこちらも勉強になるし、面白い日々ですよ。
――前回クリストファーを演じた成河さんがそばにいるというのはどんな気持ちですか?
章平:実は昨日、初演のビデオを拝見したんですよ。
成河:観ちゃったの!
章平:ケラケラ笑いながら(笑)。
成河:よく言うことなんだけれど、精神を病んでいる人のお芝居は、一番簡単だと言われるんですよ。なぜならば何も考えなくていいから。本当にお芝居をしたことがない人がセリフを棒読みしているとそのように見えるんです。それが何も考えないで誰がやってもできる役だと言われているゆえんです。
いい俳優さんほどいろいろなことを考えて、動機や心を持とうとするからどんどん外れていきます。精神を病んだ人のお芝居は表面的にやることでできる可能性があります。
僕はどちらかというと表現主義的なことが好きだったのでクリストファーという役を作ることができたけれど、章平くんはすごく心が熱いやつなんです。心のある俳優さんがこういう役に取り組んだ時に登ったてっぺんというのは、すごく高いんじゃないかと思っていて、今最大限に期待している真っ最中です!
千葉:今の話、言い換えると、成河が心のない俳優ということだな。
(一同爆笑)
成河:今の僕が表面的なことでクリストファーをやったら、絶対に面白くないんですよ。テクニックでできてしまう役なので。ある程度年齢を重ねてテクニックでやった時に、全然面白くない役になってしまうから、心のある俳優が悪戦苦闘しながらたどり着くのはすごく素敵なことだなあと思って。
千葉:俺も前回やったブルースはできないなと思っている。だって正義感がないですもん。何にもない!(笑)
成河:人生を1周、2周、3周している人たちのお話なんですよ。ブルースはまだ1周していない人間だけれど、ロバートは2周も3周もしている。今回の役の関係性は、そういう意味でそれぞれ合っていると思うので、初演よりシンプルに見えると思っています。
――公演を楽しみにしている皆さんに、作品のアピールポイントをお願いします。
成河:このお話は一つの場所でずっと話をしている、演劇的に飛躍のない芝居なんです。演劇があまりよくわからない人でも理解できる話のような気がするんです。話の内容としては、海外ドラマを見慣れている人なら、余裕でついていけると思います。
千葉:演劇慣れしていない人たちが、この空間を体験してくれるとすごくうれしいかもしれない。話自体はそんなに難しくないから、劇場に来てこの空間を味わってもらえるとありがたいですね。ちょっと長いけど(笑)。
成河:言うな、言うな(笑)。でも演劇だと構えないで観ていただきたい。医療の話でもありますし、教育の話ともとれますし、人間の話ですから。教職についている人や医療関係の人にも観てほしいし、そういう方たちと「何なんでしょうね?こういう仕事って」と話もしたいですよ。
章平:3人が生きている様を普通に目撃していただきたいですね。どこか共感するところが三者三様であると思いますし、人によってどこに感情移入するかというところは分かれると思います。観終わったあとに、気持ちを誰かと共有しなくてもいいと思うんですよ。自分の中でかみ砕いていただけたらなと僕は思いますね。ぜひ観に来てください!
――最後に、演出家でもある千葉さんからコメントをお願いいたします。
千葉:今回も無謀なチャレンジをしていて、いろいろな責任もあるし、セリフも覚えなければいけないというところで、皆さんの足を引っ張らないように遠くの夕日を見ています(笑)。でもとてもいいチームなので最終的に助けていただけると思っています。俺が足を引っ張らなければ(笑)。
取材・文:秋乃麻桔
撮影:尾中力也
公演名:『BLUE/ORANGE』
作:Joe Penhall
翻訳:小川絵梨子
演出:千葉哲也
出演:成河 千葉哲也 章平
公演日程:2019年3月29日(金)~4月28日(日)
会場:DDD青山クロスシアター
東京都渋谷区渋谷1-3-3 ヒューリック青山第2ビル B1F
チケット料金:全席指定 7,800円(税込)
※未就学児入場不可
ご予約・お問合せ
チケットスペース 03-3234-9999
公演公式サイト
http://www.stagegate.jp/
各種プレイガイド情報
■チケットスペース
■チケットぴあ
TEL:0570-02-9999[Pコード:491-455]
https://w.pia.jp/t/blue-orange/
チケットぴあ店舗、セブン-イレブンで直接販売
■ローソンチケット
TEL:0570-000-407[Lコード:34063]
http://l-tike.com/
ローソン、ミニストップ店内Loppiで直接販売
■イープラス
https://eplus.jp/
ファミリーマート店内 Famiポートで直接販売
『BLUE/ORANGE』 アフタートークショー開催決定!
【開催公演】
4月7日(日) 13:00開演
4月14日(日) 13:00開演
4月21日(日) 13:00開演
【登壇者】
成河 千葉哲也 章平
※該当開催日時のチケットをお持ちのお客様はどなたでもご参加頂けます。
※ご参加の際は、必ずご自身のお席にお座り頂きますようお願いいたします。
※登壇者は予告なく変更になる可能性もございますので、予めご了承ください。