左:演出家/ルサンチカ主宰 河井 朗(カワイ ホガラ):1993年大阪市生まれ。高校在学中、漫画家になりたいとデザインの勉強に励むも、演劇のスタンディングオベーションに感動し舞台芸術に興味を持ち始め、京都造形大学舞台芸術学科に進学し卒業。劇団子供鉅人、冨士山アネット、突劇金魚などのカンパニーの演出助手として参加し、自身のカンパニールサンチカを立ち上げ作品をつくり始める。 右:制作 黒澤 たける(クロサワ タケル)
京都を拠点とする演劇団体ルサンチカ。2017年11月、「鉄コン筋クリート」、「ピンポン」等で知られる、漫画家・松本大洋の脚本作品「メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダイス」を二都市ツアー(京都・横浜)公演を行う。独特の世界観をもつ松本大洋の世界観の演出に携わるルサンチカ主宰の河井 朗(カワイ ホガラ)氏と、二人三脚で黒澤 たける(クロサワ タケル)氏のインタヴューをお届けします。
既成戯曲を自分たちの解釈でアップデートしていく、そんな演劇をやってみたい。
- 「ルサンチカ」のことを旗揚げされた経緯とは。
河井 京都造形大学の舞台芸術学科にいたんですが、とりあえず作品作ってみて小屋借りて舞台やろか、くらいな気分だったんですけどやってみたら、オモロイやんか、と。
それから大学を卒業して、いくつかのカンパニーの演出助手とかをしてたんですけど、やっぱり自分たちでやりたくなったんです。在学中に残してたルサンチカというのをそのまま継続させる形で再スタート切ったという感じですかね。
- では、ルサンチカが元々在学中に旗揚げされた団体だったんですね。
河井 はい、大学1年生の時にはもう始めていましたね。
当時、黒澤は「ゆうめい」というカンパニーで制作をしていて、その時にアフタートークゲストで招いてもらったんです。そこで、黒澤が僕をアテンドしてくれていたんですが、そんな会話をキッカケに意気投合した感じですね。
その時、彼は「新しい演劇はどんどん生まれていくけど、既成戯曲を自分たちの解釈でアップデートしていく、そんな演劇をやってみたい。」と言ってて、若手でそんなことをやっている団体ないから、それを俺らでやっていこうとなりました。
- ルサンチカを「世間的弱者の鉄筋コンクリート製防御陣地」と説明されてましたが、どうゆうことなんでしょうか?
河井 単純に言うと、ルサンチカが「ルサンチマン(仏:ressentiment)」と「トーチカ(露:точка)」という単語の組み合わせた造語なんです。
「ルサンチマン」は社会から弱者として見られているんじゃないかという世間的弱者の視点と、「トーチカ」はロシアには鉄筋コンクリート製の防空壕があって、その防空壕のちいさな穴からピストルを撃つんです。
僕はマイノリティな世界というのも尊重したいなと思うことがあって、当時この名前をつけました。
- かつて古い歴史と持つ京都での現在の舞台芸術のシーンどう感じますか?
河井 それはまた難しい話ですね〜(笑)。ま、僕は、大学から4年間を京都で過ごした感じなんですけど、京都、大阪と東京の3つのカンパニーで演出助手をしながら感じたことは、京都の人々自体せわしくないから、自由に作れる環境が揃ってるなって思いますね。
ただやっぱり、どんどん劇場も廃業していったりしてるんですが、その中で新しい劇場ができたり、いろんなムーブメントが起きていて、やっぱり京都は楽しみやし、魅力ですね。
今回、京都と横浜の2箇所やる理由はその文化の違いや表現と捉え方みたいなもんを探りたかったっていうこともありましたね。
黒澤 僕は逆にずっと東京に住んでる人間なんですけど、京都って観光地としてすごい発展してるんだなって感じましたね。
「伝統」を利用した流行がとにかくたくさんできてると思うんですけど、伝統的な部分と流行的な部分のその真ん中が抜けてる気がするんですよね。
なんか京都が空洞化してるんですよね。ほんとに京都で生活しているかたたちの生活感みたいなものに触れ合える機会がなくて、作られた「観光」ばかりが先行してしてしまうんです。
河井 実際、京都の人はあんまり興味はなくて、他県や海外からそれらを見に来る。ちょっと言い過ぎかもしんないですけど、KYOTO EXPERIMENT(京都国際舞台芸術祭)とかも京都の人というか、このイベントで京都に人を呼ぶっていう感じなんですよね。
黒澤 観光産業で成り立ってる部分も多いからね。実際、お寺さんが「ここインスタ映え!」って看板出してて、驚きは隠せなかったです。
- これから出てくる劇団なども含めて舞台演劇という文化自体がどう歩んでいくべきだと。
河井 僕も若手なんですけど、もっとみんなで若手で盛り上がっていきたいですね。
黒澤 そうですね。みんなとお酒飲みたいよね(笑)。
河井 そうやな(笑)。なにごとにも、斜に構えずやりたいですね。
代表作「鉄コン筋クリート」、「ピンポン」などの松本大洋氏が描く「メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダイス」の世界
河井 僕ら2人とも松本さんの作品のファンだったってことが大前提ではあるんですが、映画の「鉄コン筋クリート(2006年)」をきっかけに松本さんの「メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダイス」を見つけたんです。で、いつかこの戯曲を使って演劇やってみたいとしまっていたんです。
ここ数年、2.5次元みたいなものがあったり、多種多様なものを生まれる中で、ジャンルとジャンルの越境を図らないといけないんじゃないかと思ってるんですよね。
既成戯曲ってものは古いものだから、現代的にアップデートしないといけない。ただそれより更になにか他のジャンルを合わせることが出来たら、新しい演劇の形が生まれるんじゃないかって話してたんですよね。
黒澤 そう。じゃあ、もうこれ(メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダイス)しかないでしょってね。漫画も演劇も好きだけど、そもそも松本大洋さんが戯曲を書いてるって少し驚きじゃないですか。もう最初やるのはこれしか頭になかったですね。
それから、出版元のフリースタイルっていう会社に飛び込んでオファーをして、、って感じですね。
河井 ほんと出来る制作ですよ(笑)。
黒澤 戯曲使わせてもらってるところってあるんですけど、実際にイラストを使わせてもらってるところってないんじゃないかな?やっぱりそのイラストがフライヤーに載ってないと集客もしづらいだろうというのもあったけど、ただ例えば漫画が好きで演劇には興味ないっていう人にも観てもらえるようなキッカケは作れたんじゃないかなって思っています。
- 独特なユートピアな世界観を演出するに当たって
河井 最初は、松本大洋さんの本とか資料を読みあさって勉強はしたんですけど、結局演じるのは僕ら。だから、松本大洋さんが伝えたいことを僕らやったらどう解釈して批評できるかというところに視点を置き換えて演じるようにしています。
河井 松本大洋さんの作品「そこから何が見えるか?」って問いかける作品がすごく多いんですよね。で、僕は最初何も見えないと思ってたんですけど、自分なりの解釈で見えた形を今回舞台上で表現したつもりです。だから、次にそれを観たお客さんからは何が見えるんやろって問えたら嬉しいですね。
黒澤 演劇ってダサい、みたいなイメージってあるじゃないですか。今回それを払拭したうえでかっこいいものをやれたらいいですね。
演劇にコアな人というか文化的な視点の方からすると、2.5次元のエンタメみたいなものに話題が集まったりしてることってあまり喜んでないかもしれないけど、僕はそういうのすごいいいことだと思ってるんですよ。
ルサンチカ 「メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダイス」
2017年11月24日(金) 〜 2017年11月26日(日)
-------
ソコカラナニガミエル?
と松本大洋が描く多くの作品は私たちにこう問いかけてくる。
はっきり言うと私の答えは、ナニモミエナイ。
正しさも、幸せも、目指すべき理想の世界も見えない。見えないというより見るべき場所も、見方もわからない。
今回ルサンチカが挑戦するのは松本大洋が描くユートピアを題材に、私たちが目指すことができる世界、誰のためでもない私たちにとっての楽園を定義し、本作を上演する。
「What’s the purpose of your visit ?」
-------
キャスト
勝二 繁
村上 千里
御厨 亮
中田 凌輔
新藤 江里子
近藤 千紘
黒田 健太
作 松本大洋
演出 河井朗
舞台美術 小西由悟
照明 西村祐実
音響 近松祐貴
音響オペ 辻村実央(京都公演)・近松祐貴(横浜公演)
衣装 大井まゆ
舞台監督 若旦那家康(京都公演)
演出助手 ヰトウホノカ
制作 黒澤たける
宣伝美術 池田愛
主催・企画 ルサンチカ
協力 コトリ会議・ドキドキぼーいず・株式会社フリースタイル
ルサンチカ公式サイト http://ressenchka.com/
ルサンチカTwitter @ressenchka
河井朗Twitter @hoga_p
黒澤たけるTwitter @TV96S