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日本初演ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』 演出家 元吉庸泰インタビュー!

英国・ロンドン、ソーホーの街を舞台にしたミュージカル『ソーホー・シンダーズ』が、3月9日によみうり大手町ホールで日本初演を迎える。

ミュージカル『メリー・ポピンズ』の追加音楽を手掛けたジョージ・スタイルズとアンソニー・ドリューのコンビが脚本、音楽、歌詞を手掛け、「主人公が男性、その恋人も男性」という意外性のあるストーリーが話題となっている。

鴻上尚史さんに師事、また鈴木裕美さんや小川絵梨子さんら数々の演出家の演出助手を務め、数々の舞台演出に携わっている元吉庸泰さんが、本作品の演出を手掛けることになった。日本初演のミュージカルをどのように作り上げていくのか、そして元吉さんが演出家になったきっかけや今後の夢について語っていただいた。

――今回の作品は主人公が男性でその恋人も男性。そしてオフブロードウェイの作品でもあり、日本初演となるミュージカルです。元吉さんはTwitterで稽古について「世界初の試みをしています」と発信していましたが、どんな作品になりそうですか?

すごく面白いのが、この作品の譜面を見るとメインキャストが歌うよりも、アンサンブルが歌いあげているのがほとんどなんです。つまりオフブロードウェイで上演された時はおそらく10人近くのアンサンブルがいた物語なんです。誰のナンバーというものが表立って存在しない、外側から歌でうめていくタイプのミュージカルです。

ところが今回の公演は、アンサンブルを誰もキャスティングしていません。本来なら20人以上のカンパニーになるはずが、10人のメインキャストのみで行っています。

例えば第1幕最初のM1「オールド・コンプトン・ストリート」という曲は全員で歌い上げるのですが、メインキャストしかいないので、どこまでメインキャストでやれるかのということにチャレンジしています。

――アンサンブル部分をオールキャストでカバーしていくわけですね。

そうなんです。プロデューサーと話をした上で決めたことですが、難しい試みである一方で面白いと思っています。なぜかというと、この話ってどういう話だろうとなった時、ロンドンのソーホーという町の話だということになったのです。つまり全員が参加し全員が世界を作り上げる、非常に演劇的な作品なのではということになり、こういう感じになっちゃいました(笑)。

――今のお話で、とても斬新で面白い作品になるのではないかと感じました。

すごく面白いです。昨日もとてもいい稽古ができました。まず振付家がメインも歌ってアンサンブルも歌うという振付を作り、意味を付け加えながら実際にやってみた時に、(松岡)充さんや(大澄)賢也さんが「この歌詞はこういうことじゃないのか」とか、「いや、こういうふうにするとこういうところが見えないんじゃないのか」と意見を出してくれました。

他のキャストからも「いやいや、この振りの感じだと心情的にはこっちじゃないか」と意見が飛び交ったんです。何回も稽古で繰り返して、「こっちだね!」と全員がたどり着いたところがありました。

――少人数のカンパニーだからできることですね。

非常に演劇的で有機的な稽古ができていると思います。僕自身は演出として全部を決めていくタイプではなく、俳優さんが誇り高く舞台上に立っていただきたいということを一番大事にしています。まず稽古場に俳優さんが何を持ってこられたのかということをいろいろお話して、このセリフはこっちの意味にとって、こういうリアクションをとっていきましょうということをやっていきます。

――元吉さんは役者さん一人ひとりの話をしっかり聞くタイプですか?

結構聞いちゃいます。もちろん何もない状態の時は「こういう感じですよね」ということを最初にご提案させていただきますが、稽古場で実際に動いてみたときに、「やっぱりこっちかもしれませんね」というようにしていくと、非常にうまくつながることが多いです。

――今回キャスティングされているのが、ロビー役に林翔太さん、ジェイムズに松岡充さん、ベリンガム卿に大澄賢也さんなど、はまり役のキャスティングだと思いました。演出家としてキャストの魅力をより倍増するために行っていることはありますか?

私の師匠(鴻上尚史さん)の受け売りではないのですが、俳優さんがまず何を持ってくるか、そしてその解釈の枝をどんどん広げてあげたる事がいいのかなと思っています。

今回面白かったのが松岡充さんのジェイムズという役です。これは非常に難しい役なんですよ。脚本を読むと「この人一体何者?」と思う部分があって、実際に充さんも最初は「これ、ほんとあかん」「ジェイムズってずるくない?(笑)」という話をされたんです。

稽古の初日に懇親会があったんですが、充さんの隣で飲んでいた時に、「ちょっと思ったことがあるんですけど、ジェイムズは天然で驚くほど純真なんだと思います」と伝えました。すると充さんも「俺も天然としか思えない」「じゃあ天然ってことで稽古しません?」というところから稽古が始まりました。

これが枝葉になったのかは分からないですけれど、すべてに対してフラットになった充さんのお芝居が誠実に伸び始めました。たぶん最初にお話したことを充さんは誠実に受け取ってくださったのだと思います。

賢也さんと役について話をした時も「ベリンガム卿は寂しい人だと思うんです」というところから始まり、「分かった!」と言ってくださいました。実は、ベリンガム卿という人は、だいぶ気持ち悪い人なんですよ(笑)。でも「寂しい人」という話をした時から、しぐさもだんだん哀愁を帯びてきて、この人も寂しいんだなということが分かるようになりました。

ロビー役の林翔太くんはすごくフラットな感じで演じていたのですが、ロビーは何か変わりたい、日々の生活をちょっと良くしたいと思っている人なんだと思うと話をしました。その純粋さでジェイムズと出会って恋に落ちたんじゃないかという話をしたら、最近の林くんはすごく母性が出るようになりました。かわいいし、女の子みたいに笑うんですけれど、ジェイムズをお母さんのように抱きしめているところを見て、すごいなロビーって思っています。

――本当に皆さんで話し合って役を作り上げているんですね。

難しいのは、マルシアさんのサイドサドル役です。立ち位置の難しい役に感じるんですけれど、今となってはこの話の中核にいます。

現代版シンデレラ、というコンセプトですが、僕はこの話の中に魔女は二人いると思っていて、ベリンガム卿とサイドサドルだとマルシアさんにお話しました。なぜなら二人とも町を俯瞰して見ているからで、外からこの町がどうなるかを見ていて、ベリンガム卿はお金で関与しようとするし、サイドサドルは見守ろうとしている。

この考え方でマルシアさんのサイドサドルがどう動かれるかということを作っていきたいと申し上げたら、その言葉がマルシアさんの中に入って行ったと思うんです。その後の稽古で、振付家が指定したポジションではなく、「いや、こっちに出てもいい?」と言った位置がちょうどベリンガム卿と対の位置にいらっしゃるのをみて「なんて素敵!」って思いました。

Twitterで書かせていただいた「世界初の試みをしています」というのは、ここまでカンパニーが新作レベルの考え方で作っていけることがすごく幸せだということです。もしこの作品のオリジナルカンパニーが来日してくださったら、絶対に納得してもらえると信じながら、毎日やらせていただいています。

――元吉さんから演出家としてとても熱いものを感じます。現在、いろいろな舞台でご活躍ですが、今後やっていきたい舞台作品はありますか?

自分としては、本格的にシェークスピアをやっていきたいと思っています。作品をあげるとするなら、『マクベス』ですね。

シェークスピアを専門としている東京大学教授の河合祥一郎先生と以前お仕事をさせて頂いたことがあり、河合先生と話すことで、自分の演出の考え方や仕事のスタンスが腑に落ちたことがありました。

河合先生は、シェークスピアはもともと芸術家ではなく王様に楽しんでもらえる作品を生活のために書いていた人だとおっしゃいました。なぜなら、王様に気に入られなければ劇団員全員がクビになったからです。でもそれがエネルギーとなり、彼の作品は後世に残ったということなんです。

僕はこの言葉を聞いた時に「そうか!」と思いました。僕が生きるために演劇をやっていることは、間違っていないんだと。もともと演劇の世界は、天才しかいることができない場所なのかと漠然としたイメージがありました。なんといっても師匠の鴻上さんが天才なので(笑)。

でもちょうどこの話が腑に落ちた同じタイミングで、兄弟子の板垣恭一さんが飲んでいる時に突然、「俺とお前は才能がないんだからな」とおっしゃったんです。「その心は?」と板垣さんに返したら、いろいろな理論や考え方、テクニックを身に付けて、それをしっかり形作っていくことで十分戦えるということを教えてくださいました。鴻上さんの演出をすべて分析した上でやられている板垣さんだからこその話なんです。僕にとって板垣さんは十分、天才なんですけど(笑)。

この話をきっかけに、生活のために戦うことを目指そうと思ったことは大きかったです。この時期に出会ったのが板垣さん演出の『マクベス』だったので、その時からずっとシェークスピアが自分の中に残っているのです。

――元吉さんご自身はお芝居をされていたんですか?

僕の経歴は複雑なんですよ。劇団もやっていましたが、メインは舞台照明で食べていました。それと同時にモデルをやっていたので、その流れで舞台に出ることになったのが「あうるすぽっと」のこけら落とし公演『ハロルド&モード』です。そのあと満島ひかりちゃんと共演した『ルドンの黙示』に出演して自分は演者に向いていないと思い、26歳で舞台に出演することをやめました。

その『ルドンの黙示』の舞台監督から、「鴻上さんが演出助手を探している。お前ちょっと賢そうだから来い」と謎のお達しをもらって(笑)、東京芸術劇場へ連れていかれ、初めて鴻上さんとお会いしました。

 ――鴻上さんのもとで演出助手としてスタートしたんですか?

そうです。初対面で「お前は何になりたいんだ。演出助手をやったことがあるのか?」と言われて、初対面でお前ってなんだと、ちょっとカチーンときたので「あります!」と言ってしまいました。その後に、演出助手につくなら、演出家って答えておいたほうが印象いいだろうと思って、「自分は演出家になりたいと思っています」と言ったことからスタートです。

 ――鴻上さんに対してそこまでビシッと言えるのはすごいですね。

でも怖かったですよ! それから3年近く鴻上さんのもとで演出助手をやらせていただいて、その時に勉強のために色々な舞台の演出部や小道具もやらせていただいきました。その内のひとつが、宝塚OG公演『DREAM TRAIL~宝塚伝説~』でした。この作品をきっかけに荻田浩一先生と仲良くさせていただいています。

そうしたら板垣さんがいきなり「君は私の演出助手をやりなさい」と謎のお達しを言ってきて(笑)、29歳の時に瀬奈じゅんさんの『ビューティフル・サンデイ』で演出助手をしました。そこから鈴木裕美さんなどの舞台で演出助手の仕事が決まっていって、勉強の毎日でした。

――鴻上さんと出会ってからいろいろあって、一気に物事が進んだのですね。

そうです。その後、西田シャトナーさんの『弱虫ペダル』で2.5次元にもふれて『終わりのセラフ』と続き、この流れで今年4月に上演予定の『僕のヒーローアカデミア The "Ultra" Stage』が決まりました。出会った人たちとのいろいろなご縁がずっと続いている感じがします。

――作品の話に戻りますが、今回の舞台はどういう人に観てほしいですか?

非常に大きな要素として、登場人物全員がそれぞれの日々をほんの少し良くしたい、今の場所から少し進みたいと思っています。それは誰しも持っている思いだと思うんです。ほんの少しというところに躊躇している人が、この作品を観ると一歩を踏み出せるのではないでしょうか。

大きな要素といったのは、この話の中でも登場人物それぞれ悩んでいることがありますが、悩みに大小はないと思うんです。最終的に自分で何かを選んで、選んだところに歩いていくということがこの話のテーマだと思うので、何か一つ選ぶことに関して勇気がなかったり、何か一つ悩んでいたり、自分が悩んでいることは果たして悩みなのかと思っている人も、この作品を観て少しでもより良くなるために色を加えていただければと思います。

 ――これから本番までいろいろな変化が出てくる舞台になると思いますが、作品に対する意気込みとこの作品を観に来る人にメッセージをお願いします。

2009年の英国・ソーホーのオールド・コンプトン・ストリートに、まず皆さんを連れていきたいと思っています。最初のナンバーから人々の交わり、明るさ、世界観、すべてを感じてもらいたいと思いながら、心を込めて作っています。ですので、どうぞそれに飛び込んできてくださればというのをお伝えしたいのと、まったくもって怖くないよということを、お伝えさせていただければと思っています(笑)。

取材・文:秋乃 麻桔
撮影:尾中 力也

公演名:ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』

音楽:ジョージ・スタイルズ
歌詞:アンソニー・ドリュー
脚本:アンソニー・ドリュー&エリオット・デイヴィス
翻訳・訳詞:高橋亜子
演出:元吉庸泰

出演:林翔太(ジャニーズJr.) 松岡充 /
東山光明 谷口あかり 西川大貴 豊原江理佳 菜々香 青野紗穂 /
マルシア 大澄賢也

【東京】公演日程:2019年3月9日(土)~21日(木・祝)
会場:よみうり大手町ホール

ほか大阪、金沢、愛知公演あり

【神奈川】公演日程:2019年3月31日(日)
会場:やまと芸術文化ホールメインホール(大和市文化創造拠点 シリウス)

チケット料金:9,000円 (全席指定・税込)※未就学児入場不可
ご予約・お問合せ:チケットスペース 03-3234-9999

各種プレイガイド情報

チケットぴあ
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(Pコード:東京491-642/神奈川491-984)
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ローソンチケット
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【神奈川公演のみ】やまと芸術文化ホール1階ホール事務室(9:00~20:00)
※窓口販売のみ

WEBサイト
シーエイティプロデュース公式《Stage Gate》
https://www.stagegate.jp/

公式twitter
@soho_cinders_jp

★…終演後、アフタートークイベント開催決定!
(登壇者)
3月11日(月)18:30開演…登壇者(予定):林、松岡、東山、西川、大澄
3月12日(火)14:00開演…登壇者(予定):林、松岡、東山、谷口、西川、豊原、菜々香、青野、マルシア、大澄
3月13日(水)18:30開演…登壇者(予定):林、松岡、谷口、豊原、菜々香、青野、マルシア