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ウンゲツィーファⅫ『さなぎ』 演出・本橋龍氏インタビュー

2019年2月8日(金)から11日(月)にかけて、東京・東中野の驢馬駱駝(ろまらくだ)で、劇団ウンゲツィーファ公演『さなぎ』が上演される。

それに先立ち、脚本と演出を手掛ける本橋龍さんに話を聞くことができた。昨年、北海道戯曲賞を受賞した若き演出家が、今回の公演にかける意気込みと演劇について熱く語る。

 ――劇団名の「ウンゲツィーファ」とはどういう意味ですか?

フランツ・カフカの『変身』という作品で「虫になる」という表現があるんですけど、原文で「ウンゲツィーファになる」と書いてありました。最近改めて翻訳されたものを読むと「虫になる」が「ウンゲツィーファになる」とそのまま書いてあったんです。

ウンゲツィーファという意味が虫ではなくて「いけにえにできないほど汚れた動物」というようなことを意味するのに、日本では完全に「虫になる」と訳されていて、その差が個人的に面白いなと思いました。

この作品を僕が読んだのが高校生の頃で、その時は「陰気な話だな」と思っていたのですが、最近改めて新しい翻訳で読みなおして、初めて自分の中で『変身』が分かったような気がしました。

例えば虫になった時って、残飯を食べ出すんです。カフカがウンゲツィーファになると書いたのは自虐的な発想で、自分がめちゃくちゃ最低だと思った時の延長にウンゲツィーファになったということがあるのだなと思って。それで残飯をおいしく感じるというのも、僕たちがしんどくなった時にジャンクフードばかり食べ出したりすることが同じ状態だと思ったりして、そういうところに共感しました。

――劇団を立ち上げた経緯を教えてください。

 脚本を書いて演出したいと思ったんです。

――もともとは演じる側だったと思います。演出する側になりたいと思ったきっかけは何ですか?

高校生の時は演劇部に所属して演じる側でしたが、大学時代、サークルで演劇をやっていて、その頃に自分で演出をやりだしました。あまりこれといってきっかけはなく、気がついたらやっていたという感じです。

少なくとも僕が大学のサークルにいた頃の考えでは、演出をすることが一番クリエイティブな感じがして、俳優はどちらかというと演出家や脚本に沿うような感じなので、自分でやりたいことがあったから演出を手掛けるようになりました。

――次回上演作品『さなぎ』は、どういう作品ですか? ホームページを拝見すると哲学的なことが書いてあり、普段演劇を観ない人には難しいのかなと思ったのですが……。

僕はそもそも演劇がそんなに好きではなくて、演劇ってダサいなと感じているところがあるんです。今回の作品もたぶん演劇を観ない人のほうが楽しんでいただけるのではないかと個人的には思っています。実際に僕の作品は、全然演劇を観たことがない人から、「面白かった」と言ってもらえることが多いんです。

俳優も演劇経験が少ない人を選ぶことが多いです。今回の作品も俳優経験がないミュージシャンが2人います。ミュージシャンだから演奏……ということではなくて、話をしていて面白い人たちだなと思い、俳優として出演してもらうことにしました。

たまにオーディションをやるんですけど、以前僕の作品が好きだと言っている女性がいて、その女性を好きな男性が応募してきたんです。出演したらその子に振り向いてもらえるのではないかと思ったとのことで、そのメールを見て「一緒にやりましょう」とすぐに返信しました。

ですので、作品自体、あまり演劇という感じではなくて、もうちょっと柔らかいもののような感じがします。

――具体的にはどんな話なのでしょうか?

脚本が完成する前に先に宣伝をしなければいけないので、公式ホームページに載せている内容から変わってきています。

物語としては家族の話で、基本的に海外と日本と2つの場面が同時に進んでいきます。年越しのカウントダウンから作品が始まり、おおみそかから元旦にかけての物語が繰り広げられます。

例えば、今こうやって話をしていても、話しながらいろいろなことを考えるじゃないですか。友達と会話をしながらも「ご飯をどうしようか」と考えたりとか。人がいて会話をするということは、もっとぐちゃぐちゃしているところがあるような気がするんです。

『さなぎ』では、そういうぐちゃぐちゃしたものを肯定するというか、それでいいんだよと言いたい感覚があります。話の流れも、こういうことが起きて、こういうことが起きてというよりも、感覚的にこういう時に全然違うことをふと考えて、話をそちらにもっていったりして展開していきます。

――それは一人の人物の思考が飛ぶ様を描いているんですか?

いや、出演者全員です。僕は登場人物がいて、その人がどうのこうのというのはあまり考えていません。主人公っぽい人はいますが、別にそこは関係ないです。たくさんの人が出演しますが、全員で一人のような感覚ですね。

もちろん俳優がそれぞれを演じるわけですから、僕は基本的に俳優それぞれに託したいところがあります。俳優が自分の与えられた役について広げていくし、お客さんも観る上で広げていくと思うので、神経の集まりにしたいという感じがあって、あまり物語というのは考えていないです。

僕がやりたいことは、観る人を前のめりにさせないといけないというのがあります。そういう意味で物語は必要だから、分かりやすく作っています。「おおみそかに年を越す話」というのは分かりやすいと思うので、それが分かればいいと思うし、あれなんだろう? と分からない部分もあると思うけど、分からないなりの楽しさは考えてやっています。

――先ほどあまり演劇が好きじゃないとおっしゃっていましたが、どうして演劇を続けているんですか?

一言で言うと、僕がやれることだから……です。

演劇を続けていることに関しては、集団創作であるということが絶対にあると思っています。僕はあまり一つのことを長く続けられなかったんですが、演劇だけは続けられました。たくさん人が集まって、その人たちとやるからこそできることってあるじゃないですか。

じゃあなぜ演劇なのかというと、かっこつけているみたいですが、演劇は人ができることの一番下のもののように僕は感じてしまうんです。いろいろな演劇があってとても素晴らしい作品はたくさんあると思うけど、僕は自分ができることの最底辺が演劇のような感じがして。

ちゃんとしている演劇であれば、スタッフとか照明があってというのがあるけど、別にそれはなくてもいいわけですし、観る人がいて、その人に対して何かをやればそれはもう演劇なわけです。

僕は演劇経験がない俳優と仕事をするといいましたけど、いっぱい演劇を勉強してきた人と初めての人と、パッと台本を読んでもらった時に意外とそんなに差がなかったりするんです。

そして演劇は一回公演が終わったら、終わりというところもいいです。演劇をやっていて良かったなと思う時って、僕の場合は本番をやっているときや練習をしているときではないんです。

すべて公演が終わって打ち上げをして、集まったメンバーとはしばらく会わない、夜一人で歩いている時なんですよ。もう明日からないんだなと思った時にやっていてよかったと思います。

――これから作っていきたい作品やこういう仕事をしていきたいというのはありますか?

東京を離れなければ……と思っています。演劇はめちゃくちゃアナログじゃないですか。今はデジタルが主流でアナログのものはどんどん淘汰されていると思うんですけど、でもいまだにレコードが好きな人がいたり、カセットテープが流行ったりとか、アナログなものをあえて好む人はいるはずで、演劇もそうだと思っています。

でも演劇は観に来ないといけないですから、わざわざ東京に観に来てもらうのは大変なので、僕のほうからいろいろな場所へ行きたいです。

あとは、東京から離れて別の土地に住むことで、また違う作品が作れるような気がします。別の土地に行って、その地について書くみたいな。単純にそこで生活をして、人と出会って……。東京でやっていることと取り組むことは変わらないですが、全然違う場所というだけで、感じることが違うと思うんです。

――具体的にどこへ行きたいですか?

離島でやりたいですね。可能であれば海外でもやってみたいです。

また昨年北海道戯曲賞を受賞して、今年も最終選考にノミネートしていただきました。北海道に縁を感じるので、年内には北海道で作品を作ってみたいなと思っています。

――『さなぎ』の見どころについて教えてください。

今回初めて俳優を出演ではなく「劇生」というクレジットで書かせていただきました。今まで、出演していただく人を出演と表現するのに違和感があったんです。演劇って長期間稽古をするけれど、お客さんが見るのは本番だけじゃないですか。稽古の期間は結構長くて、ある種生活しているぐらいの感覚なんですよ。

僕は出演してくれる方々が作品を作っているという感覚が強くて、一緒に生活をしているから掃除もするし、雑用をお願いしたりもするわけです。それを出演と閉じ込めてしまうのはどうなのかなとずっと思っていました。かといって、この言葉がハマるというものがないので「劇生」という言葉を作ってみました。劇を生むとか、高校生みたいに共同でやっていくことです。スピリチュアルな言葉が合うと思ったのですが、ちょっとかっこつけすぎたかなと思っています。

作品の見どころという意味では、クレジットに「劇生」を使ったことが僕の中ですべてです。もちろん観て下さる人もお客さんとはめたくなくて、いってみればプレーヤーの一部だと思うんですよ。

今回の作品は今の時点でどうなるか全くわからなくて、どういう感じになるか分からない。ただ、僕の頭とは別にさなぎというものがあって、それをお客さんも含め、みんなで作っていく作業を公演を通してできたらと思うんですよ。それはとても心地良いもののような気がします。

生活に疲れている人が来て、ちょっと元気になるようなものをやろうと思っています。

【取材協力】驢馬駱駝(ろまらくだ)

 

公演名:『さなぎ』

脚本・演出:本橋龍
劇生:石指拓朗 黒澤多生 近藤強 服部未来 深道きてれつ 松井文 渡邊まな実

公演日程:2019年2月8日(金)~11日(月)

会場:驢馬駱駝(東中野)
http://paoco.jp/index.shtml
東京都中野区東中野2-25-6 PAOCOMPOUND 9F

JR線「東中野駅」西口改札より徒歩2分
大江戸線「東中野駅」A1出口より徒歩2分

 

チケット
予約 3,000円
当日 3,500円
※ともに当日精算
初日割 300円引き

詳細はこちら↓
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